反動説−感情的反対者−利害的反対者
反動説
それまでの過度の好評が転じた自然な反動では。朝河自身も一理あるとする。従来欧米における日本賞賛はその中に反動の分子を含んでいたため、十数年外国にいて心からこれを喜んだことはない。何故に今、反動が怒っているのか。何故この反動が東西洋に普及したのか、また、満州に関して特に一定の形で現れ出たのは何故か等の説明には不十分。
感情的反対者
(日露)戦前より感情的に日本を「忌むべき小癪者」とした欧米人が若干いた。戦争中日本の軍隊から充分な便宜を得られなかったことを憤って日本を嫌うに至った従軍の軍事通信者もいた。これらは些事ではあるが関係は浅くない。施錠を利用して盛んに日本に不利な言論をして日本の私曲を信じさせた論客の幾分かはこの種の人々。
ただし彼らは現在の形勢の主因ではない。世情が傾いているからこそ、彼らの言論も時を得ている(だけ)。
利害的反対者
清韓でビジネスをしている外人。支那本部、満州で着実に進歩しているドイツ商人、揚子江航業、貿易、北清鉄道等に利害関係が深い英国商人、満韓の貿易上重要な地位を占めており今後に希望をもっている米国商人。日本人がドイツ人の着実な活動を恐れる以上に侵蝕ぶりに圧倒させられていることを恐れていることが報告にも明らか。
英国人は支那における地盤が古く固い分、日本の競争を喜んでいない(マクベーン事件)。独英米の外商は利害が急なあまり、些細でも日本の満州における不公平を疑えば、これを放置できない。また、計算(利益)に明知を覆われて誤解に陥ることも少なくない。自己に都合の良い曲解を用いることもある。日本に利がある論点はまったく知らないかのごとく発しない。
彼らの日本に対する態度は、日本居留地の欧州商人が日本の条約改正に反対した時の態度に似ている。なんとなく日本を眼下に見ているから、その失敗を嘲り、成功を憤る。特にその成功が彼らの利害と関係するとなれば、日本は悩ましい国となる。しかも、彼らは東洋に居住しているから、日本が黙っている以上は欧米の満州に関する知識はこのような商人の通信に依頼するほかない。満州のような重大な問題に関して、世論のほとんどが少数商人の私利の念から発せられた報道に左右されている今日のようなことは、史上稀有の珍事で、これで生じた害毒は恐るべきもの。
けれど、朝河自身は起こっている世情の主因は上記では足らず、もっと他に求めるべきだとする。それは(日露)戦後満州における日本の地位が、人類有史以来極めて特別なことだという。